藤子・F・不二雄SF短編集:PERFECT版・大全集・コンプリート・ワークスの違いとは?

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ドラえもんやキテレツ大百科など楽しい児童漫画で知られる藤子・F・不二雄先生。その一方でビッグコミックやSFマガジンのような雑誌にちょっとこわ~い短編が単発で掲載されることがありました。このような大人向け短編は「SF・異色短編」と総称されています。

少年誌などに掲載された「少年SF短編」と合わせて、たくさんの読み切り短編を描いていた作者。2023年にはドラマ化、同時にSF短編の全集『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス』が出版され話題になりました。

が、じつはSF短編全集が出版されるのは3回目です。ファンの筆者からしても「何回買わせるんだよ!」という感じなのですが1、普通ならなおさら1回で済ませたいところ。

SF短編集は過去に多くの単行本が出版されています。このうち、現在おすすめできるのは全作が収録されている次の3種類の全集のいずれかです。どの本が一番良いのでしょう?

結論としては、紙版は装丁やサイズなどが好みに合う本を、電子版は藤子・F・不二雄大全集をおすすめします。以下、それぞれの全集の特徴をまとめます。

PERFECT版

A5/ハードカバー/全8巻/紙版:計15,840円、Kindle版:計10,560円

PERFECT版の特長は、「スタジオ・ボロ物語」が収録されていることとハードカバーであること。難点は紙版の価格がやや高めであることと印刷品質が後の単行本より劣ることなど。特長の2点にこだわりがなければ他の単行本をおすすめ。

他の単行本より収録作が1話多い

オバケのQ太郎の誕生秘話「スタジオ・ボロ物語」は、他の単行本ではSF短編とみなされていないため未収録です。

本作が収録されている単行本は『PERFECT版 4巻』(電子版では2巻)と『藤子・F・不二雄大全集 オバケのQ太郎 11巻』しか存在しないため、読みたい方はPERFECT版が視野に入ってくるでしょう。

完全発表順編集

発表順に作品が掲載されており、SF短編の歴史がわかりやすいです。一方、掲載誌が混在するため、大人向け作品の次に少年向け作品が掲載されているなど、そういった点でまとまりのなさを感じるかもしれません。各巻の収録内容は公式サイトをご確認ください。

表現の修正が多い

PERFECT版はセリフ(差別表現)の修正が多く2、代替語の選択もいまひとつな印象です。連載当時の表現を味わいたいというこだわりがある場合は、他の単行本をおすすめします。

巻末エッセイが魅力的

巻末に業界関係者のエッセイが掲載されており、作者に関する貴重な証言もあります。とくに7巻の長女・匡美氏「父の持論」はマニア必見の内容です3

参考:解説者一覧(藤子・F・不二雄データベース)

藤子・F・不二雄大全集(SF・異色短編/少年SF短編)

A5/ソフトカバー/全7巻/紙版・Kindle版:計12,430円

電子版のイチオシである藤子・F・不二雄大全集の特徴は、カラーページを再現していること、雑誌版の扉絵などの資料が充実していること。内容としては完璧です。

カラーページを再現

カラーで描かれた作品は少なく、最初の数ページだけの場合もあるものの、カラーページは再現されています。雑誌掲載時は全ページカラー、単行本収録時にモノクロで加筆された「ひとりぼっちの宇宙戦争」は、大全集では修正された部分がはっきり確認できます。

掲載誌別発表順編集

大全集は掲載誌ごとに分けた上での発表順編集です。各巻の収録内容は公式サイトをご確認ください。各巻に統一感があるのは大全集の個人的おすすめポイントで、筆者の好きなサンデー作品が1巻でまとめて読めるのはありがたいです。

表現はオリジナル重視

大全集は、作者の意図によらない改変をできる限り本来の姿に戻すという方針です4。そのため、すべてではありませんが5、PERFECT版などで修正されていたセリフは元に戻されているものが多いです。

印刷(画質)が高品質

大全集では従来の製版フィルムを刷新し、新規でスキャンしたデータを利用しています6。このため過去の単行本よりも印刷が綺麗で、とくに電子版は違いがわかりやすいです。以前の版では輪郭がはっきりしなかった「ひとりぼっちの宇宙戦争」の印象的なひとコマもこのとおり。

見開きページの処理が丁寧

大全集公式サイトにあるとおり、見開きページは紙版ではすきまを開けて、電子版ではすきまなく結合処理されています。電子版で見ると、PERFECT版との違いは一目瞭然。

コンプリート・ワークス(通常版)

B6/ソフトカバー/全10巻/紙版:計11,110円、Kindle版:計10,560円

特徴らしい特徴のないコンプリート・ワークス通常版の最大のメリットは、一般的なコミックと同様のB6サイズであるということ。読むのに意外と体力と気力が必要なA5の単行本と比較して、コンプリート・ワークスの読みやすさは抜群です。価格も安く、モノクロで問題なければ紙派の方には一番おすすめかも。

収録順はPERFECT版と大全集の中間

SF・異色短編(1~6巻)と少年SF短編(7~10巻)に分け、おおむね発表順に収録されています。各巻の収録内容は公式サイトをご確認ください。

表現は大全集と同様にオリジナル重視

多くの表現がオリジナルに戻されています。良くも悪くも大全集と同じかもしれません。大全集と同様に本来の表現を尊重するという方針が巻末の編集部コメントからも伺えます。

印刷品質は大全集と同じ

大全集と同じマスターデータを利用しており7、品質については大全集と遜色ないでしょう。ただし全ページモノクロの点と、紙版の見開きページのすきま処理はされていない点はご注意を。

コンプリート・ワークス(愛蔵版)

B5/ハードカバー/全10巻/紙版のみ:計47,800円

SF短編集の中では最大サイズのB5版で、見開きがきれいに開くコデックス装です。1冊約4,800円と高額なので、予算を確保できサイズに強い魅力を感じる方におすすめ。その他、通常版との細部の違いは公式サイトをご確認ください。

なお、愛蔵版のみに収録されている作者のエッセイの一部は現在入手しにくい貴重な資料からの再録です。

参考:作者のことば一覧(藤子・F・不二雄データベース)

SF短編は魅力的な絵が多いです。絵にご興味のある方には、原画集『Casa BRUTUS特別編集 大人も読みたい藤子・F・不二雄100』もおすすめします。掲載原画のうち25作がSF短編と充実しており、価格も1,650円と非常に良心的です。

私の好きなSF短編

購入する単行本は決まりましたね? 最後に筆者の好きなSF短編を5作紹介します!

未来ドロボウ

PERFECT版4巻/大全集:少年SF短編1巻コンプリート・ワークス8巻

家計の問題から高校に進学できなくなりお先真っ暗な主人公。将来に絶望しかないとわかっているのなら、そんな未来など捨ててしまっても構わないのでしょうか? 筆者が高校生のときに感動した本作は、歳月を経たいまも繰り返し読まれる不朽の名作。

流血鬼

PERFECT版5巻/大全集:少年SF短編1巻コンプリート・ワークス8巻

刺激的な流血シーンから始まる本作は、ウィルスが現実を侵食していくホラーな導入から、場面が転換する逃亡劇、そして怪物と化した幼なじみとの邂逅を経て、すべてが反転する衝撃のラストで終了する。SF短編の要素がすべて詰まった最高傑作。ドラマの原作にも選ばれ、前後編で充実した内容でした。

ノスタル爺

PERFECT版2巻/大全集:SF・異色短編1巻コンプリート・ワークス2巻

じつは「さようなら、ドラえもん」とほぼ同時期に描かれた本作。友達との別れを経て未来に向かうのび太と、閉じ込められた過去で友達と再会するノスタル爺の主人公。2人とも幸せそうだから、これで良かったのでしょうか? 2作のラストのコマも比較してみましょう。

ヒョンヒョロ

PERFECT版1巻/大全集:SF・異色短編4巻コンプリート・ワークス1巻

大うさぎちゃんかわいい♬ 家庭に異世界の存在が紛れこむというのはドラえもんでもキテレツでも同様のはずなのに、本作はなぜか空気が全体的におかしい。私のツボは「続 きょうはく状」

自分会議

PERFECT版1巻/大全集:SF・異色短編4巻コンプリート・ワークス1巻

ドラえもんから救いをなくすとこうなります。自分どうしで争うネタはF作品では定番であるものの8、本作についてはちょっと悪意があふれすぎではないですか。作者は自重してください。

  1. T・Pぼんも一時期こんな感じだったような……。T・Pぼんについては次の記事で解説しています。:「T・Pぼんで歴史の目撃者となれ! 各単行本の違いと最終回の行方」[]
  2. 正確には、PERFECT版の前に刊行された単行本(小学館文庫『異色短編集』など)の時点ですでに修正が確認されています。[]
  3. 1巻に掲載されている同じく匡美氏の「こっそり愛読した父の作品」もおすすめ。[]
  4. 大全集各巻冒頭の「この全集に収録した原稿について」より。:『SF・異色短編1巻』p.3など。[]
  5. たとえば「気楽に殺ろうよ」の表現は戻されていませんでした。[]
  6. 『ハイパーホビー』p.64. 2010年8月号. 徳間書店[]
  7. コンプリート・ワークス各巻「読者のみなさまへ」より。[]
  8. 「ドラえもんだらけ」とか「半分の半分のまた半分…」とか「昨日のおれは今日の敵」とか。[]

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