T・Pぼんで歴史の目撃者となれ! 各単行本の違いと最終回の行方

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藤子・F・不二雄先生の生誕90周年を記念して、2023年に驚くべき企画が発表されました。ややマイナーながら非常に評価の高い名作『T・Pぼん』(タイム・パトロールぼん)のアニメ化です。

本作におけるタイム・パトロールは、全世界・全時代を通して不本意な形で命を落とした人を助ける役割を負っています。主人公である並平凡(なみひらぼん)は、ひょんなことから理不尽なイベント1に巻き込まれてタイム・パトロールの隊員にさせられてしまいます。

タイム・パトロールになったぼんは、古代から近現代に至るまでのさまざまな世界の活動を通して見識を広げていきます。

歴史を堪能しつつ、ぼんたちは本来の使命である人命救助に従事します。しかし、タイム・パトロールは歴史に影響を及ぼさない範囲でしか活動することができません。歴史はバタフライエフェクトのように複雑で、ささいなことが巡り巡って未来に影響を及ぼしてしまうため、大勢の犠牲者が出る中で救うことが認められるのは少数ということも少なくありません。太平洋戦争の沖縄戦では、1,900機2の特攻機の中で助けられるのはたったの1機。

ぼんはタイム・パトロールになったことを後悔するほどの無力感にさいなまれるものの、それでもひとりを救ったことで変化していきます。

ときに、タイム・パトロールというより人類の歴史に絶望するエピソードも存在します。古代における奴隷制度の風習に嫌気が差し、次は近代での活動を希望するも結局そこは制度が存続するアメリカ。数千年経ったところで、何も変わっていないのでした。

しかし、降り立ったその時は1861年4月12日、それはアメリカ南北戦争の始まりの日。その後、大統領のリンカーンが奴隷解放を宣言し、アメリカの奴隷制度は終わりを迎えます。

作者は、子ども向けの物語が悲劇で終わることを好まなかったよう3で、ドラえもんのような児童漫画では未来に対して前向きに進むエピソード4が一般的です。その一方、大人向けのSF・異色短編では、人類が滅亡して終了するような悲劇的な作品5が執筆されることもありました。

歴史そのものをテーマとする本作は、悲劇を繰り返す人類に失望しつつ、それでも未来を信じつづける双方の面を含ませた名作となっています。

単行本は大全集一択

全話収録の新装版が4月30日から、愛蔵版が7月から刊行予定です。刊行次第以下の記載は修正します】

2024年1月16日現在における現行の単行本は藤子・F・不二雄大全集中公文庫版の2種類です。結論としては、購入すべき単行本は全作が収録されている大全集の一択です。

本作は掲載誌および掲載時期を元に大きく3部に分かれています。()内はファンの間で称されることのある通称です。

  • 第1部「少年ワールド編」(リーム編):大全集1巻
  • 第2部「コミックトム編1」(ユミ子助手編):大全集2巻
  • 第3部「コミックトム編2」(ユミ子正隊員編):大全集3巻

中公文庫版にはこのうち第3部の「コミックトム編2」(11作)が収録されていません。また、これ以外にも過去に多くの種類の単行本が刊行されておりますが、全作が収録されている単行本は大全集のみです。何も考えずに大全集を購入してください。

描かれることのなかった最終回

作者の「好き」が詰まった本作は、ドラえもんに次ぐ8年の長期連載になりました。作者の体調不良のため連載が中断した後も作者は再開の意向を示していたものの、実現されることはなく、ドラえもんおよびチンプイ6と並ぶ未完の作品のひとつとなります。

そんなこんな過ぎた時代への思い入れを漫画にしたくて「T・Pぼん」を書きました。力不足で遠く意図に及びませんでしたが、実はまだ連載を終えてはいないのです。(1995年5月)

藤子・F・不二雄 「T・Pぼん」で書きたかったこと:中公文庫『T・Pぼん 3』p.2937

本作は大全集が刊行されるまで単行本未収録作品が存在する状況が続きました。その理由の一部は、その大全集にて明かされています。

「どうしてもあと1本描いてからじゃないと単行本にはまとめられません」と断られてしまいました(笑)。先生としては「T・Pぼん」の連載を再開しようと考えていたわけで、最終回を描こうとしていたわけではありませんでした。

浮田信行(潮出版社取締役):大全集『ポコニャン』p.356

単行本に未収録の作品がありますが、という問いに、「あと1本ほど描くとよいのですが、いつになるか」と答えていただきました。が、その1本を読むことはついにかないませんでした。

綿引勝美(メモリーバンク代表・編集者):大全集『T・Pぼん 3』p.382

作者の没後に単行本に収録された「ローマの軍道」は雑誌版から加筆されていました。そして、最後の最後に大全集にて初収録された「王妃ネフェルティティ」は元原稿が修正途中の状態であり、そのまま掲載することが困難だったため、雑誌を複写したものが収録されています8

  1. 第1話の流れは『モジャ公』よりひどいと思います。問題作モジャ公については次の記事で解説しています。「狂気あふれる名作『モジャ公』 藤子・F・不二雄の最高傑作!?」[]
  2. 作中解説による。大全集『T・Pぼん 1』p.284[]
  3. 『ポピュラーサイエンス日本版 vol.47(2004年10月号)』p.36. 長女・匡美氏コメント[]
  4. 「昔はよかった」(TC30巻)、「しずちゃんをとりもどせ」(TC40巻)など。[]
  5. 「箱舟はいっぱい」「ある日……」(大全集『SF・異色短編 4』)など。[]
  6. 「本当はあと2話分を描き下ろして第5巻を出す予定でした。(中略)先生の体調やほかの仕事との折り合いなどもあり、結局御存命中には5巻目は出せませんでした」(大全集『チンプイ 1』p.446. 元・中央公論社『藤子不二雄ランド』編集長・嶋中行雄氏コメント)[]
  7. 本エッセイは大全集『T・Pぼん 1』pp.520-521に転載されています。[]
  8. 大全集『T・Pぼん 3』p.378. なお、第2刷以降では一部原稿コピーに差し替え(ネオ・ユートピア:Twitter(2018年9月12日))。[]

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