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『モジャ公』というSF漫画はドラえもんと並んで藤子・F・不二雄の最高傑作と称される傾向にある作品でコアなファンが多く、筆者も大好きです。ぜひこの漫画の魅力を知っていただきたく、本記事ではモジャ公について紹介します。
さっそくですが、モジャ公はひどい作品です。内容もキャラクターも本当にひどいです。楽しい作品を読みたい方は別の漫画をおすすめします。同時期なら新オバQが面白いです。
この作品、いいかげんな主人公たちがいいかげんな動機でいきなり宇宙に家出します。しかも最終話まで地球に戻ってきません。
道中、宇宙に存在するさまざまな星に行き、先々でトラブルが起こります。トラブルしか起こりません。ぼったくられる、心当たりのない仇討ちをされる、感染症の収束のため星ごと消滅させられそうになる、不死身の星の狂気に巻き込まれて自殺させられる、新興宗教の終末思想に取り込まれるetc…
宇宙に夢はありません。連載が始まったのは人類が月に降り立った年ではなかったのですか。
すったもんだで地球に帰還する最終話。地球が滅亡の危機に陥ります。結末に至るまでの間に多くの犠牲者が出ているように思うのですが、その後地球はどうなったのでしょうか。漫画自体が打ち切りになったので謎のままです。
とにかく内容がブラックで、グロや怖い描写も多くあまりにもあんまりです。後半になるほど凶悪化が進み、終盤は「自殺集団」「天国よいとこ」「地球最後の日」と大傑作の3連発。もうタイトルの段階でいろいろお察しいただければ幸いです。
地球人の天野空夫、異星人のモジャラ、ロボットのドンモ、この3人のでこぼこトリオが主人公となります。この3人がまた薄情な連中なのです。
普通、F作品の主人公たちは基本的に助け合ってトラブルを解決していきます。でもモジャ公は違います。メインキャラ全員で毎回危険なことを押し付け合い、割を食ったキャラは戻ってこない。誰がようすを見に行くかでまたもめる、その繰り返しです。それぞれが利己的で自分のことしか考えていないのです。
しかも争う原因のひとつは「金さえあればこの世はばら色」という共通思想です。思想どころか口に出して言っています1。こいつら本当に金のことしか考えていません。金のためなら死すら見世物にする、その結果として自殺しなければならなくなる。
これ本当にF作品の主人公ですか?
こんな救いのない利己的な主人公たちは、なんだかんだで最終的には団結(協力ではない)して生き残っていきます。というのも、各話のゲストキャラクターたちがもっと凶悪なので団結せざるをえないからです。
モジャ公は低学年読者を想定して『ぼくらマガジン』に掲載されましたが、明らかに対象年齢を間違えていますので2、人気なく1年で打ち切りとなりました3。なぜこのような不条理な作品を低学年向けに描いてしまったのでしょうか。
それはさておき、傑作には違いありません。冷酷な切れ味で大人にも好評な作品です。藤子・F・不二雄大全集が3回に分けて電子化されたとき、第1弾にモジャ公がありました。評価が高い作品だからこそ、選ばれたのだと思います。
藤子・F・不二雄の最高傑作『モジャ公』 どうぞお楽しみください!
2024年現在は完全収録の『藤子・F・不二雄大全集』一択です。その他の単行本は絶版かつ未収録作品があるためおすすめはしませんが、参考として最後にまとめています。
藤子・F・不二雄作品をお楽しみいただき感謝します。同様の作品をもっと読んでみたいという方に『21エモン』と『SF・異色短編集』を紹介します。
モジャ公の実質の前作に当たり、宇宙を舞台にした作品です。前半は地球のホテルに宿泊する異星人たちとの異文化コミュニケーションを楽しめます。しかし、宇宙に飛び出す後半はモジャ公のようなブラックな作品が増加します。
主人公はモジャ公と異なり好人物です。お金にこだわる一面はありますが、それは自身の夢を実現するためであり、他人を不幸に陥れるようなことは決してしません。ホテルの宿泊客の過払金もきちんと返還します。
残念ですが21エモンも打ち切りの憂き目に遭いました4。対象年齢がおかしいモジャ公はともかく、本作についてはあまり納得がいきません。この作品の面白さがわからないなんて!
ブラックな作品をお求めの方には大人向けの「SF・異色短編」をおすすめします。人間が家畜として牛に食われる話、高齢者への社会保障を切り捨てる話、過去未来の自分同士で争う話など、救いのないエピソードが非常に多いです。
単行本は複数出版されています。紙版で気軽に読みたい方はコンプリート・ワークスを、大判または電子版で読みたい方は藤子・F・不二雄大全集をおすすめします。NHKでドラマ化もされました。
過去に全集以外でモジャ公を読んだ上で全集を購入する必要があるのか疑問な方や、気軽なサイズの単行本で読みたい(全集は全1巻なので分厚いです。)という方向けに、過去に発行された単行本を参考までにまとめます5。
単行本は次の6種が存在します。
- 虫コミックス(10話収録・全2巻・虫プロ商事)
- サンコミックス(10話収録・全2巻・朝日ソノラマ)
- 藤子不二雄ランド(11話収録・全3巻・中央公論社)
- 愛蔵版(11話収録・「地球最後の日」加筆あり・全1巻・中央公論社)
- コロコロ文庫(10話収録・「地球最後の日」加筆あり・全2巻・小学館)
- 藤子・F・不二雄大全集(12話収録+α・「地球最後の日」加筆前後両方収録・全1巻・小学館)
このうち、各単行本の重要な違いは次の4つです。
- 「不死身のダンボコ」の収録の有無
- 「地球最後の日」の加筆修正の有無
- 「第2話」の収録の有無
- 『たのしい幼稚園』編の収録の有無
虫コミックス・サンコミックス・コロコロ文庫ではエピソード「不死身のダンボコ」が未収録です。本話は連載時の最終話でしたが、単行本の編集に当たり「地球最後の日」が最終回の扱いとなったので未収録となったのだと思います。
これはそこそこ面白い話なので、この3単行本でモジャ公のファンになった方がいらっしゃれば全集で確認されても良いかもしれません。
愛蔵版とコロコロ文庫では「地球最後の日」のラストが加筆修正されています。加筆前後にご興味のある方は両方が収録されている全集をご確認ください。筆者はへっぽこな加筆前の方がモジャ公らしくて好きです。
冒頭部にも修正があり、各単行本に収録されているものは雑誌連載時とは異なります。修正前は全集に資料として掲載されています。
単行本収録時に第1話の終盤が加筆修正された影響で、第2話は基本的に単行本未収録です。第1話の修正前および第2話は全集にのみ資料として収録されています。(これはそこまで面白い作品ではないと思います。)
モジャ公は本編『ぼくらマガジン』と並行して『たのしい幼稚園』にも連載されていました。たのしい幼稚園編は全集にのみ収録されています。(幼児向けの2ページの作品です。)
- 大全集「自殺集団」p.282[↩]
- 実際の読者層はともかく、愛蔵版コメントによると少なくとも作者は低学年を想定していたようですね……。しかも20年経っても反省しているようにみえません。[↩]
- 『季刊Utopia 9・10合併号』p.57. 作者コメント(『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス愛蔵版 7』p.293に転載)[↩]
- 「”モジャ公”誕生の顛末」『愛蔵版 モジャ公』p.3. 作者コメント(『藤子・F・不二雄大全集 モジャ公』pp.679-680に転載)[↩]
- 参考文献:「藤子単行本購入ガイド モジャ公」『藤子不二雄atRANDOM』[↩]