出木杉くんのフルネームは出木杉英才(ひでとし)? 出木杉の本名の変遷を追う

頭が良くてハンサムでスポーツマンで明るい、非の打ち所がないイケメンの出木杉くん。彼の本名が登場することはほとんどないため、アニメの「ぼくは出木杉英才(ひでとし)」という自己紹介で下の名前を初めて知って驚いた方は多いのではないでしょうか。(2021年4月3日放送「プロフィールを盛っちゃえ」 )

しかし、この「英才(ひでとし)」という名前は当初から設定されていたものではありませんでした。現在の公式設定「出木杉英才(ひでとし)」という本名は、じつは何度も変遷を経たうえでようやく定まったものだったのです。

出木杉くんの本名の変遷

出木杉くんの本名は、次のとおり変わっていきました。

  • ①明智
  • ②明智と出木杉(混在)
  • ③出木杉
  • ④出木杉太郎
  • ⑤出木杉英才
  • ⑥出木杉英才(えいさい)
  • ⑦出木杉英才(ひでとし)
  • ⑧出来杉【番外編】

①明智

(仮設定)

いきなり出木杉から外れますが、内々の仮設定では出木杉くんに当たる人物が「明智」と呼ばれていたことがわかっています。

藤子・F・不二雄ミュージアムにて原作における出木杉くん初登場回「ドラえもんとドラミちゃん」の原画が1ページ展示されたことがありました。以下は写真撮影が可能な一時期に撮影した原画です。

のちの本編で「出木杉」とされている部分がすべて「明智」と鉛筆書きされています。また、藤子・F・不二雄ミュージアム公式ブログでも同様の内容が紹介されています。

この「明智」という名字は最終的には「出木杉」に変更されたため、この設定は本来明らかになるはずのないものでした。しかし、雑誌掲載時に思わぬミスでこの明智設定が登場することになったのです。

②明智と出木杉(混在)

(1979年9月 Part1)

以下は「ドラえもんとドラミちゃん」が掲載されたコロコロコミック(1979年9月号)です。一番最初だけのび太が「明智」と呼んでいます。

本話において、出木杉くんに当たる人物は8回呼ばれます。最初の1回のみ「明智」、他は「出木杉」でした。筆者は明智と出木杉という2人の人物がいると思っていましたが、そうではなかったようです。

③出木杉

(1979年9月 Part 2)

「ドラえもんとドラミちゃん」が掲載されているコロコロコミックは、2バージョンあることが確認されています。後のバージョンでは「明智」が「出木杉」に修正されています。このことから「明智」は単純な誤植であったことがわかります。

修正後の「ドラえもんとドラミちゃん」はてんとう虫コミックスプラス4巻に収録されています。

④出木杉太郎

(1979年10月)

「税金鳥」にて、出木杉くんのフルネームが初登場します。「出木杉太郎(たろう)」です。てんとう虫コミックス22巻初版でもルビを含め同様の内容で収録されています。(後の版では修正されています。後述します。)

⑤出木杉英才

(1980年9月)

「透視シールで大ピンチ」でも出木杉くんの本名が登場します。しかし「税金鳥」で設定された「出木杉太郎」ではなく「出木杉英才」でした。

最終的にはこの設定が採用されるのですが、セリフではなく絵として描写されたため、雑誌掲載版・単行本版ともルビが振られておらず読み方が不明です。このことが後に問題を引き起こします。

「透視シールで大ピンチ」はてんとう虫コミックス23巻に収録されています。

⑥出木杉英才(えいさい)

(1993年頃から1997年頃までのどこか。記事最後の補足を参照)

初出時に「出木杉太郎」とされていた「税金鳥」ですが、のちの単行本で「出木杉英才」に修正され設定が統一されました。ルビは「えいさい」です。

⑦出木杉英才(ひでとし)

(1998年3月頃から現在まで)

現在の公式設定です。「えいさい」から「ひでとし」に変更されたのは、小学館ドラえもんルーム編集の『ド・ラ・カルト』(1997)に記載されたひでとし説がきっかけのようです。

内容が有力だったことから、原作・アニメともに「出木杉英才(ひでとし)」が採用され、現在に至ります。単行本に収録されている「税金鳥」のルビも「ひでとし」に修正されました。

ひでとし説の根拠は次の2点です。(p.115)

  • 出木杉くんの未来の息子が「ヒデヨ」
  • 同作者の単発短編「考える足」の主人公の名前が「英才(ひでとし)」

出木杉くんの未来の息子が「ヒデヨ」

このことは、てんとう虫コミックス40巻「しずちゃんをとりもどせ」にて確認できます。のび太の息子が「ノビスケ」であるように、出木杉も「ヒデ」と読む名前なのではないかという推測です。

同作者の単発短編「考える足」の主人公の名前が「英才(ひでとし)」

同作者によるノンシリーズの単発短編「考える足」の主人公は「英才」です。そして、雑誌掲載版および作者存命時に発行された単行本初版のルビは「ひでとし」でした。

現在「考える足」は中公文庫の『藤子・F・不二雄SF短篇集1 創世日記』(ルビなし)や『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編 2』などでお読みいただけます。手軽に読みたい方は前者の文庫版、大判(A5)で読みたいまたは他の短編も含め全作読みたい方は後者の全集をおすすめします。全集は電子版が11月1日に配信予定です。

⑧出来杉くん

「出”来”杉」くんではなく「出”木”杉」くんが正しいです。出木杉くんはのび太にとっての恋敵ではありますが、対等に話ができる良き友人でもあり、強い信頼関係が感じられるキャラクターです。そんな出木杉くんをこれからもよろしくお願いします!

なお、本記事は明治大学の米沢嘉博記念図書館@yone_lib)様のご協力(レファレンス・資料提供)により執筆することができました。心から感謝申し上げます。

関連エピソード・収録書籍まとめ

参考資料所蔵図書館について

本記事の執筆に当たり、国立国会図書館様と明治大学の米沢嘉博記念図書館様の資料を多く利用させていただきました。両図書館の所蔵資料について紹介します。

国立国会図書館

明治大学・米沢嘉博記念図書館

補足:「⑥出木杉英才(えいさい)」に修正された時期について

「税金鳥」が「出木杉英才(えいさい)」に修正された詳細な時点は筆者では特定できませんでした。少なくとも、文庫『エスプリ編』初版が発行された1998年1月10日時点で修正されていることは確かです。

また、1992年12月30日第43刷のてんとう虫コミックス22巻ではまだ「出木杉太郎」でした。

つまり、1993年頃から1997年頃のどこかで「出木杉英才(えいさい)」に修正されていることになります。この時期だと、作者没後(1996年9月)の修正の可能性がありえます。また、作者が存命だったとしても、体調不良により連載がほとんど止まっていた時期です。作者がきちんと内容を確認した上で「えいさい」とルビが振られたのか、いまとなっては知ることができません。

補足:「⑦出木杉英才(ひでとし)」に修正された時期について

『ド・ラ・カルト』が発行されたのは1997年12月ですので、それ以降に修正された可能性が高いです。前項のとおり1998年1月10日時点では「えいさい」でしたが、三谷幸広『最新ドラえもんひみつ百科 1』(1998年3月25日初版)から、1998年3月頃には「ひでとし」が公式設定とされたことが確認できます。

補足:「税金鳥」収録単行本と発行時期について

「税金鳥」における出木杉くんの記載について筆者が確認した書籍をまとめます。

  • 出木杉太郎: てんとう虫コミックス22巻(1992年12月30日第43刷)/藤子不二雄ランド25巻(1986年6月13日初版)/藤子・F・不二雄大全集9巻(2010年8月30日初版)
  • 出木杉英才(えいさい):文庫エスプリ編(1998年1月10日初版および2007年3月20日第23刷)/文庫DXドキリ風刺編(2004年8月1日第5刷)
  • 出木杉英才(ひでとし):てんとう虫コミックス22巻(2000年12月30日第68刷)/学年別小学四年生(2019年9月23日第2刷)

雑誌掲載版を重視した編集方針の全集では「太郎」で収録されています。また、文庫や文庫DXでは増刷版でも「ひでとし」に修正されていないようです。なお、文庫DXの初版発行は2000年10月10日です。

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